R/F 5つの断片(抄)

1の断片

雨が降っていた
雨はまだ降っている
緑が濃くなった
博物館の芝生の
それを取り囲む木立の
緑、ありきたりな
もう夏なのだ
私はそれを七階のベランダから見ている
ハドソン河の岸辺から釣り糸を投げ込むように
光は物静かな放物線を描いていた
灰色の光だ
人々は傘をさして歩いている
私も外出すべきなのか
わからない
たぶん、わからないままこの一日は終る
友人からの葉書には
あいかわらず何も良いことがないと書いてある
もう若くはないと思うが
それでも苛立ちはする
あたりまえだ
壁にはりつけた葉書の表面が
プラスチックのように鈍く濡れている
そいつが風に捲れると
今度は壁全体が溶け始めるのだろう
異邦人の怯えにはつきものの幻想か
そんなものは子供に返すべきだ
その壁を垂直に折れると
夜のような箱がある
箱のなかで
私の本は未だ少年のように不死を信じている
今日
たとえば
何を覚えておくべきか
風は吹かない
雨は降っている