そうやって
ね、
朝が来てしまう
緑色をした
緑色の顏をした
緑の…
夜のおまえは膝ッ小僧の上に小さな顔を乗せて。部屋の片隅で、ベッドの上で。祈っている? まさか。冗談でしょう。そんな習慣はありません。祈る言葉なんて持っていないし、祈りの仕方も教わっていない。吐き気をこらえながらただ壁をじっと見つめているだけ。ね。そんな夜ばかりが続く。ずっと。これからも。
誰かと会えば少しは違う? わかっている。でも会いたい人なんかいない。強がりではなくて。本当にいません。時におまえは誘われて夜の街について行くことを想像してみる。どんなに恐い目にあっても部屋に帰るよりマシだと思う。夜の街は好きか嫌いか。大嫌いだ。汚れているから。汗の匂いがするから。昼も夜も、街なんか嫌いだ。人がいるから。うようよしているから。大好きなアスファルトのタールの匂いを、彼らが消してしまうから。それでもやっぱり部屋にいるよりはマシだと思える。この部屋は自分の部屋ではないから。とりあえずの収容所に過ぎないから。
ね、
収容所。
電話線にハサミを入れた時の解放感、というか安堵の気持ちが全てだったのではないでしょうか、とおまえは語った。まるで他人事のように。全てはその瞬間に終わったのだと。そして背後のない不安に入って行った。おまえはそれ以上を語ろうとはしない。というより、もう語ることなど何も残されていない。何も起きない。ね、カラッポ。この部屋でおまえは言葉を失っていく。通信の途絶えた部屋で、壁紙から滴る不安だけに支配された部屋で、おまえはもう一度おまえのなかに閉じ篭ろうとするが、おまえ自身であるはずの「袋」はすでにぼろぼろに綻びていて、その綻びから誰かが入ってくる。
誰か?
ジャスミンおとこ?
ポランスキー?
アントナン?
いやそんな素敵なもんじゃない。毛むくじゃらの強引な腕をしている。
土人?
土人なの?
土人のコビト?
奇形の猿?
いやもっと卑しいもの。たぶん、もっと卑しい。おまえはその卑しいものに手紙を書こうと思い付く。言葉を取り戻すために。彼の精神の汚れ具合を確認するために。そして紙の前に立ち尽くすのだ。夜の白い壁を凝視するように。そして何日目かの夜に、ようやくおまえは最初の一行を書いた。
アンドロメダ教授、わたしはまだあなたの名前を知りません