電波詩集(抄)

25 ボン踊り、やる気無し

墓荒らしの一群と合流してみた
黒マニヨンの歌だった
「ラッセラー」とか言って子供達は跳ねる跳ねる
終末夢ジャンボ
笛吹きの恋
メガネ君
旧国鉄
ぜんぶ主題歌の世界に入ってみた
みんなTシャツを脱いで振り回し狂ってみた
ミドリのカナブンが眼にあたってみた
ふすま一枚隔てて黙ってる人のことは誰も考えない
誰か、気色の悪い人
「神います」のような人
「神いません」のような人が
黙って聞いている
紙の戸のバリア
そのうち何か文句を言ってくるだろう
おまえら戦争に行けと言うだろう
メガネ君に「メガネはずせ」と言うだろう
適当にがんばれメガネ君


26 スロー・ライフとは何か

瞳で泳ぐヒドラ
運命の輪、吊るされた男、塔、月、愚者
「トートの書」の一頁のなかで発情するオオカミ男、キツネ憑き
白くも黒くもない悪霊たちが
窓のないテスリのような境界線から投げ棄てる
血色の生キューピー
ミステリではない全部
いつまでたっても始らないボクンチの時間
手を引いて歩く商店街
ピッコピコのゲーセン音楽にどこまでも行き悩んで夕暮れ
余った時間をどう使ったらいいのか判らない
異様に疲労した子供たちが
最後の遊びを始める
さよならドッペル、さよならゲンガー
(何の声だろうか
(僕にはその声の主がわからない
鬚ではない毛が生えてきて
買ったばかりのケシゴムの真っちろい腹を
憎しみだす
カッターナイフでスパっと裂く
建物が傾いて
死角が手招きをしている


27 シャブちゃん

パチスロ男
大敗して「みんなわしの金じゃあ!」
店で大暴れする
男は通称「シャブちゃん」
いったいどんな金で食っているのか
数々の奇行、虚言癖が災いして
「あいつシャブでもやっとんちゃうか」ということになり
今に至る
「シャブちゃんまた暴れとる」
「哀れやのお」
客も店員も知らん顔
シャブちゃん、きっと許されているのだろう
でもこんな敗者代表は嫌だ
「みんなわしの金じゃあッ!」
叫べよ
アフリカ段階
彼の叫びは今日の勝者の心にも響く、響きまくって笑えるが
それを言ったらおしまい
欲望がシラケル
エロチでポン


28 佐野ちんに捧げる

紙の奥をよおく覗き込んでごらん
柔らかそうなカーテンが風にふくらんでいるから
その裏側にはカーテンよりも薄っぺらな幽霊が立っていてとても美しいから
幽霊は、映像ですよ
だから美しい(と誰かがフランス語で言ったような気がする、耳のうしろでそっと
人間も映像になって紙の奥に行けたらいいのに(もう帰ってこなくていいよ
人間はどうして長細いのだろう(ミミズほどではないけどさ
ミミズのうた、という映画を撮った佐野ちんはピンク男優になってピンク監督になって
ミミズになったのだろうか、これからなるんだろうか……
本が四角いのはなぜだ(家も墓も四角いよ、カドッコが、恐い、何でだろ
みんな丸かったらどんなにか良かったのに(丸の凶暴?
好きなのはチンチンだけか(丸は凶暴だな
せめて声は、丸い方がいいですよ(うん、丸凶暴
紙の奥には丸い声が(でもたくさん詰まっているのはいやだな、葡萄みたいで
葡萄は、ちょっと恐いんだ
何かがうじゃうじゃ分裂していくから(で、字になる、字になって喋る
父は大きな玉をした葡萄のことを「ドクロ」と呼んでいた
「おう、ドクロくれえい」(恐かったですよ、恐かったですよムラサキのタマシイの
カケラが、ポロポロのカケラが……
人生のふりをした時間がボクラを食べるでしょう?
嫌になっても生きて行くんだろ?